~5年前の夏祭りから家族の一員となった亀吉を、奥多摩の自然の中で飼育したいという気持ち(半分は餌がにおうからという理由)から、屋外に水槽を置いていた。半端な気持ちが仇となった。揺れる庭木、唸る風、空になった水槽、涙で頬を濡らす息子。状況を理解するまでに、多くの時間はかからなかった。~
探しても探してもいない。持っていた木刀で草をかき分け亀を探したと先生が知ったら、ちびっこ剣士は即破門だろう。まさか素振りから亀探しになるとは…。
3日経つと、亀吉の水槽を玄関の脇に置いたことと同じくらい、「次号に続く」と思わせぶりなブログの閉じかたをしたことに後悔する私がいた。やっぱりいませんでした、では話にならない。
1週間経つと、「実は多摩川で生きているのでは」とか、「外に置いた餌がなくなっているから本当は家の敷地内にいるのでは」とか、各自都合のよい解釈をし始めた。私もなにげにしおどきを感じ、亀吉の話題は口にしなくなった。ブログも、やっぱりいませんでしたでいいや。こんなところで(いや、おおごとなんだけど、)更新を滞らせている場合ではない。毎日ブログをチェックしてくれているファン(おじというニックネームの伯父さん)のためにも、ここで立ち止まってはいられない。
8日経った夕方、電話が鳴った。お酒の仕入れでお世話になっている佐藤商店さんからだった。

「家の前の道路を渡っていた。」(佐藤さんの証言)
荒澤亀吉、自宅から200メートル離れた日原街道(日原鍾乳洞へ続く道)で発見される。7日間休みなく歩き続けたとしたら、亀吉の歩く速度は秒速0、001フィートである。せかいのうちに、おまえほど、あゆみののろい、ものはない…。

ビニール袋に入って帰ってきた。
奇跡が重なり、荒澤家に無事帰還した亀吉。新調した水槽の中でパッケージに「におわない、にごらない」と書かれた餌を食べる亀吉。竜宮城に着く前に、現実に引き戻された亀吉。
今回の保護が幸せだったのか否か…。それは亀吉にしかわからない。
END
荒澤屋
あかべこ